DVD-Video の音のトラブル

DVD-Video 作成に際して起こりやすい音のトラブルとしては,音と映像がずれることと,(稀にだが)音が再生されない,というものが代表的だ。それぞれについての代表的な原因について書いておこう。

[目次]


音がずれる

原因の多くはキャプチャ時にある

映像と音声がずれる原因の代表的なものは,次の2つだ。

  1. ビデオ編集の段階でデータがおかしくなっている
  2. キャプチャのときに映像がコマ落ちしている

a. は,ビデオ編集ソフトがファイル内におかしなデータを残してしまったりする場合に起こる。
「MPEG-2 形式のデータを作る >> MPEG ファイルの加工 >> MPEG を編集する」に書いたように,(特にアップデータ適用前の)Canopus Mpeg Cutter にはこの種の問題があった。

しかしそれよりもっとよくあるのが,b. なのだそうだ。
キャプチャが間に合わないと,映像がコマ落ちする。つまり,あるべき画像が抜ける。そのとき,抜けた画像の位置に次の画像が来る(前詰めする)と,映像の再生は本来の記録時間より早いペースで進んでしまう。音声が本来の記録時間どおりに再生されていれば,その分,音声が遅れて再生されることになるわけである。しかも,後ろになればなるほど,ずれが大きくなる。

ただ,MPEG ファイルの段階では音と映像が合っていたのに,オーサリング後にずれてしまう,ということも少なくない。これは,たとえば,キャプチャの際にコマ落ちしたのだけれど,「この音声とこの画像がパートナー」ということを覚えておくような補正(「タイムスタンプ補正」というらしい)を加えてファイルが作られていて,そのままならずれることなく再生ができていた,という場合に起こる。
このようなファイルを,オーサリングソフトで処理して,映像と音声をいったん切り離してまた貼り合わせるというようなことをした場合,タイムスタンプ補正についての情報が捨てられて,ずれてしまう,ということになる。

このようなファイルは,いずれにしろ,おかしくなる前の段階に遡って作り直すしかない。

MPEG ファイルのタイムスタンプ補正の有無を判定するには

タイムスタンプ補正がされた MPEG ファイルは,その補正に対応した再生ソフトや編集ソフトで扱っている間は音がずれないが,非対応のソフトで扱ったり,DVD-Video にしたりすると,音がずれる。
では,あとになってもズレの生じないファイルなのか,タイムスタンプ補正で何とか取り繕っているファイルなのかを判別する方法はないのか。

ある。
TMPGEnc 2.5 Plus の[ファイル−MPEG ツール]で呼び出される MPEG ツールの「簡易分離」機能と「簡易多重化」機能を使うのだ。つまり,調べたいファイルを入力ファイルとして簡易分離をおこない,分離された2つのファイルを簡易多重化で再び1つにするのである。俗に「空通し」というらしい。
そして,出来上がったファイルの映像と音の同期をチェックする。これをやると,タイムスタンプ補正がチャラになるので,それでも音がずれていなければ大丈夫,と考えることができる。

やってみると,DVD-Video にしたときに音がずれるファイルを「空通し」して出来たファイルは,確かに音がずれる。
これでずれなければ絶対大丈夫か,というとわからないが,相当程度信頼できる方法だろう。

タイムスタンプ補正を保持したまま DVD-Video にできないか

DVD オーサリングソフトによっては,タイムスタンプ補正を何らかの形で保持したまま VOB ファイルにするものもあるようなので,それを使ってオーサリングするという手もある。

ただ私は,TMPGEnc DVD Author 1.5 をやはり使いたい。
そういうときには,ビデオ編集ソフトで MPEG 出力をし直すと,タイムスタンプ補正なし・音ズレなしのファイルになることがある。
たとえば,Ulead VideoStudio 6 SE で MPEG 出力をし直すと,その後上記の「空通し」をやってもズレが生じないようになった。
タイムスタンプ補正に基づいて不足部分にフレームを補充するとかしているのだろうか? 理由は不明だが,とにかくとりあえずズレは解消する。キャプチャし直すことのできないファイルに対しては,このようなことをしてみるしかない。

AVI ファイルでも音ズレはある?

音ズレは MPEG ファイルにしたときだけの話かと思ったら,DV コーデックの AVI ファイルも,音のズレが不可避的に発生するらしい。

これを完全に避けるには,業務用の DVCAM コーデックを使用するなど,Locked Audio に対応している機器を使うしかないのだそうだ。

この件はまだよくわからない。いま勉強中。

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音が再生されない

音が再生されない原因にも,いろいろなものがあるようだ。
ただ,私は経験したことがない。
そこで,理論上はありうる最も大きな原因である,DVD-Video の音声規格の問題 について書いておく。

リニア PCM と MPEG-1 Layer 2 の弱点

北米と日本における DVD-Video 規格の音声フォーマットは,リニア PCM(無圧縮)とDolby Digital(AC-3)の2つである。北米と日本では,家庭用 DVD プレイヤーは必ずこの2つの音声を再生できる。できなければ DVD プレイヤーといえない。したがって,日本で DVD-Video を作るなら,音声はこのどちらかの形式で作っておけば安心だ。

他方,DVD を作る元になる MPEG ファイルは,音声は MPEG-1 Layer 2(以下,「mp2」) 形式で作られている。この形式は,ヨーロッパの DVD-Video 規格では対応の必須な形式だが,北米・日本では「対応してもよい」という程度の扱いで,再生できなくてもそのプレイヤーはまったく悪くない。だから MPEG ファイルを DVD-Video にするときには,規格上は,音声の形式を変換することが必要である。実際,いくつかの DVD オーサリングソフトは,強制的にリニア PCM(無圧縮)に変換する。

しかし,リニア PCM にしてしまうと,音声部分の容量がひどく増える。224 kbps くらいで足りるところが,1536 kbps かかってしまうのである。規格上はオプションだといっても,mp2 の音声もたいていの DVD プレイヤーは再生してくれる。だから,mp2 でもそのまま DVD-Video にすることを許容してもいいじゃないか,というソフトもある。TMPGEnc DVD Author 1.5 はそういう立場だ。

ところが,稀に,mp2 の音声に対応していない DVD プレイヤーがあり,mp2 音声の DVD-Video をかけると映像しか再生されない,というわけである。

Dolby Digital (AC-3) にしよう

以上のように,リニア PCM(容量が大きくなる)と mp2(再生互換性がちょびっと心配)にはどちらにも弱点がある。
それじゃ Dolby Digital(AC-3)にすればいいじゃないか,と思うわけだが,このフォーマットの音声を作れるソフトは,ライセンスの関係で値段が張る,というのが相場だった。

ところが 2003年12月にダウンロード販売が開始された TMPGEnc DVD Author 1.5 用の AC-3 プラグインは 3000 円を切る値段。これで一気に,AC-3 での DVD-Video 製作が,手に届くものになった。
そこで私はそれ以降,最終的に AC-3 にすることを前提にビデオ編集作業をすることにしている。

具体的には,MPEG ファイルを作るときに,MPEG ビデオのエレメンタリストリーム(*.mpv,*.m2v)と無圧縮オーディオ(*.wav)に分けてファイルを作る。
両者を多重化したファイル(*.mpg,*.m2p)で作っても,DVD オーサリングのときに AC-3 にすることはできるが,それだといったん音声を mp2 から デコードするという工程が入る。そのため,プログラムの処理時間が増えるし,いったん圧縮してしまったものを戻しても完全に元に戻るわけではないから,音質面でも不利だ。
音声は無圧縮にしておいて,DVD オーサリングのときに初めて AC-3 に圧縮するのがよいのである。

作業手順説明のページで,画面上,必ずエレメンタリストリーム形式での作業例を挙げているのは,このような理由による。

ただし,以下のことには留意したい。


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